作.手ぶらの乞食
これは、とある国の王様の寓話である。
「私は賢者だ。私こそが正しい、民どもはレベルが低く話にならない。家臣たちよ私の話を理解せよ。理解出来ぬ者は即刻幽閉とする。しかと心得ておれ」
そう豪語し、神や仏や宗派に順位を付け優劣を語り、自分の次元の高さを主張する。
自分の意に沿わない者は目障りだと国から容赦なく追い出す。
そんな王様が居た。
そこへ異国の地から仕立て屋がやって来て言った。
「王様、あなた程の御方ならこの素晴らしいお召し物はいかがでしょう?神仏に選ばれし御方にしかお召しになれません。愚者には袖を通す事も不可能です。着る者を選ぶこのいとも美麗な衣装は王様の様な御方の為にあるのです。どうぞ、お受け取り下さい」
早速、王様は裸になり、その衣装を身に纏った。
「どうだ?私にぴったりではないか?確かにこれは誰にでも着こなせる物ではないな」王様はご満悦だ。
仕立て屋は両手を合わせて言った。
「実にお似合いです。やはり私の目に狂いはありませんでした。なんと素晴らしい!やはり王様は神仏に選ばれし御方。これ以上のコーディネートはございません」
気を良くした王様は仕立て屋に褒美を取らせ、翌日その衣装を身に纏いパレードを行う事にした。
しかしその仕立て屋は褒美を取る事なくその日の夜のうちに手ぶらで都を後にした。
翌日集まった民衆の前で王様はそのいとも美麗な衣装を身に纏い得意気な顔で悠然と歩きながら民衆に手を振りパレードを行った。
民衆は拍手喝采で王様を出迎えた。
その時ひとりの子供が叫んだ。
「裸の大将やん!!」
王様の衣装はランニングシャツに半ズボン、それにリュックサックといった出で立ちであった。
民衆は笑いを必死にこらえていた。
王様は後生、大々的な行事の際には必ずその出で立ちだったという。
権威に溺れ、慎みを知らず、賢者の衣と思いなしてそれを身に纏い、自らを選ばれし者とする王様の寓話である。
完