テーラワーダの真髄は解脱

 要点を整理してみましょう。お釈迦さまは客観的にものごとを見る科学者よりも、はるかに優れた科学者でした。
「生きる」という本題に対する真理を発見して、苦しみを乗り越えたのです。
それは単なる科学的なやり方であって、神秘ではありません。
不可思議な出来事も説かれてはいますが、お釈迦さまは神秘に反対なのです。
しかし時代が経つとともに、無智な一般人の要求に応じて仏教の世界の中でも、神秘的な考えが現れてきたのです。
そうして仏教の世界は、仏教独特の呪文や祈禱などを発展させたのです
(ヒンドゥー教の呪文や祈禱より優れたシステムを作りたかったのだろうと思います)。
 神秘主義は、大乗仏教世界においてじりじりと発展しました。
ブッダの教えは顕教であると明確に説かれてあったにもかかわらず、「密教」という宗派も現れたのです。
今世で解脱に達する目的から遠ざかって、一般人に現世利益を願う宗教に変身したのです。
 お釈迦さまの教えを忠実に守って、今世で解脱を目指して修行するという約束のテーラワーダ仏教も、神秘主義、御利益主義などの竜巻に揺れたのです。
現世利益や祈禱などの習慣は、テーラワーダ仏教にも現れました。大乗仏教と比較すると、神秘主義に関しては、テーラワーダ仏教は後輩です。
祝福、祈禱などの習慣は、大乗仏教から取り入れたのです。
しかし、お釈迦さまの真理の教えがそのまま残っているので、テーラワーダ仏教界で見られるご利益や祈禱系の習慣に、ブッダの教えをおさえて物置のようなところに閉じ込める力はありません。
ご利益に依存している人々も、「ブッダの真の教えは煩悩を絶って、解脱に達することだ」と明確に知っているのです。

アルボムッレ・スマナサーラ. ブッダは真理を語る: テーラワーダ仏教の真理観とその変容 (高野山大学での講演録)