次はH神父の番だった。
信徒には常日頃から生き延びるように指導していたパードレ(神父)である。
「次の者、前に出よ」
皆は固唾を飲んで見守っていた。
「どうした?踏まぬのか?」
他の者たちの倍の時間が用意されたが神父はけっして踏むことはなかった。
「ったてい!(引っ立てい)」
いつもは八重歯を出して笑う明るい神父であったが、
今日は眉間の神経質そうなシワが遠目にも見てとれた。
村の信徒の間では動揺が広がった。
「パードレ様あ、踏まなんだそうだ」「んなごっですか!(本当ですか)」
「禿げ爺。お前さんはどうするんじゃ?」
「わしは、そのう。わしは・・」
「家庭菜園ばとるんか?」
「かんにんしてつかあさい、かんにんしてつかあさい」
もう泣きじゃくっていた。