碧巌録(へきがんろく) 第48則 王太傅煎茶(おうたいふ せんちゃ)

試(こころ)みに挙(こ)す看(み)よ

本則

王太傅、招慶に入って煎茶す。
時に朗上座、明招のために銚を把る。

朗、茶銚を翻却(くつがえ)す。
太傅見て上座に問う、「茶炉下これ何ぞ?」。
朗云く、「捧炉神」。

太傅云く、「既にこれ捧炉神、なんとしてか茶銚を翻却(くつがえ)す?」
朗云く、「官に仕うること千日、失一朝にあり」。
太傅払袖して便ち去る。

明招云く、「朗上座、招慶の飯を喫却し了って、却って江外に去って野バイ(やばい)を打す」。
朗云く、「和尚そもさん」。

招云く、「非人その便りを得たり」。
雪竇云く、「当時、ただ茶炉を踏倒せんには」。
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注:
銚(ちょう):茶瓶。釜から湯を汲み分ける器
王太傅:長慶慧稜禅師(854〜932)に師事参禅した居士。太傅(たいふ)は官職名。天子の師。天子を助け導き国政に参与する職であったとされる。
招慶:長慶慧稜禅師が住んだ招慶院。王太傅が長慶慧稜禅師の道風を慕い、福建省泉州に創建した招慶院に住職として招いた。
朗上座:長慶慧稜禅師の高弟で王太傅とは同参の間柄。
明招:明招徳謙禅師。独眼竜と呼ばれた。
長慶慧稜禅師:(854〜932):雪峰義存の門下。雲門文偃とは兄弟弟子の関係。
法系:六祖慧能→青原行思→石頭希遷→天皇道悟→龍潭崇信→徳山宣鑑→雪峯義存→長慶慧稜  
捧炉神:火鉢の足に刻まれた鬼神。火鉢の足に刻まれた鬼神で火鉢の守護神のようなもの。
野バイ(やばい):荒野の中で火焼した時、残った棒杭(ぼうくい)。
江外に去って野バイ(やばい)を打す:長江の向こうでお祭騒ぎをする。長慶の下で修行した者にはあるまじき振る舞いをする。
非人その便りを得たり:非人(捧炉神)が隙につけこんだ。