碧巌録(へきがんろく) 第46則 鏡清雨滴声(きょしょう うてき せい)

、「鏡清道どう?ふ と一僧が門外の雨だれの音について 問答した公案」

擧。鏡清問僧。門外是什麼聲。
僧云。雨滴聲。
清云。衆生?倒迷己逐物。

鏡清きょうせい、僧そうに問とう、門外もんげ是これ什麼なんの声こえぞ。
僧そう云いわく、雨う滴声てきせい。
清せい云いわく、衆生しゅじょうは?倒てんどうして己おのれに迷まようて物ものを逐おう。

本則
鏡清道フ禅師、僧に問う、「門外これ何の声ぞ?」。
僧云く、「雨滴声(うてきせい:あまだれのおと)」。

清云く、「衆生(しゅじょう)顛倒(てんどう)し、己に迷うて物を遂(お)う」。
僧云く、「和尚そもさん」。

清云く、「カロウ(かろう)じて己を迷(みうしな)わず」。
僧云く、「カロウ(かろう)じて己を迷(みうしな)わずと、意旨如何?」。

清云く、「出身はなお易かるべく、脱体(さながら)にいうことはまさに難かるべし」。

注  
雨滴声:雨滴(あまだれ)の音。
衆生顛倒し、己に迷うて物を遂う:衆生は本末を取り違えて、他物を追いまわして自己を見失ってしまう。
カロウじて己を迷(みうしな)わず:私もすんでに自分を見失ってしまうところだった。
「カロウじて己を迷(みうしな)わずと、意旨如何?」:「私もすんでに自分を見失ってしまうところだったとはどういう意味ですか?」
出身:いろいろの束縛を脱して自由になること。
出身はなお易かるべく、脱体(さながら)にいうことはまさに難かるべし:いろいろの束縛を脱して悟境に達するのはむしろ易しい。それをずばりと言い止めることが実は難しい。
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本則:
鏡清禅師が僧に聞いた、「門の外で聞こえる音は何かな?」。
僧は言った、「雨滴(あまだれ)の音です」。
鏡清は言った、「お前さん雨だれに捉われたな」。
僧は言った、「和尚さんはあの音が何と聞こえるのですか」。
鏡清は云った、「私もすんでのことで迷うところだった」。
僧は云った、「私もすんでのことで迷うところだったとは、どういう意味ですか?」。
鏡清は云った、「いろいろの束縛を脱して悟るのは易(やさ)しいが、それをずばりと言うのは なかなか難しいよ」。