昔、ある寺の和尚さんのもとへ、えらいお坊さんが禅問答をしに来ることになった。
あまり学のない和尚さんは心配でたまらん。
ひどくオロオロする和尚さんを見かねて、寺に出入りしているとうふ屋のじさまが、
「よし、わしが和尚さんの衣を着て、和尚さんになりすましてやろう。まかしとけ」
と言ったんだと。
和尚さんは大喜びして、さっそくじさまと着物をとりかえた。

そうするうちに、えらい坊さんがやってきた。
坊さんは山門に入るなり、何も言わずに両手の指を十本開いて突き出した。
にせ和尚のじさまがすかさず片手の五本指を広げてそれに応じると、次にえらい坊さんが指を三本出して見せた。
すると、じさまはあかんべえをして見せ、それを見たえらい坊さんは、何も言わずに山門を出て行ってしもうたんじゃ。

本物の和尚さんはとうふ屋の格好のままでえらい坊さんのあとを追いかけ、問答の意味をたずねた。
すると坊さんは、
「わしが『十方は』と問うと『五戒でたもつ』と答え、『三千世界は』と問うと『目の下にあり』と答えられた。わしなんぞ、ここの和尚の足元にも及ばぬ」
と言って、そそくさと帰っていった。

和尚さんは寺に戻り、こんどはじさまに
「じさまは、なんと考えて答えたんじゃ?」
と聞いた。するとじさまは、
「あの坊主はとんだけちだわい。十本指を出して『とうふいくらだ』というもんで、 
『五文だ』と言うと『三文にまけろ』と言う。
ばかばしいんであかんべえをしたら、とっとと帰しもうた」
と言ったとさ。
(宮城県のお話)