おさかな
(第1話)

むかしむかし、
ある街の喫茶店で、
観光客のアメリカ人男性(A)と、
店のマスター(J)が、
世間話を楽しんでいた。
(マスターはアメリカ留学経験があるので、
英会話は流暢だ。以下のアメリカ人の会話は、
すべて日本語訳となる。)

(A)日本人は、
魚を生で食べるって聞いたんですが、
それは本当ですか?
(J)本当だよ。
刺身や寿司は美味いですよ。
貴方はまだ食べてないんですか?
日本に来たばかりですか?
(A)はい。
まだ食べていません。
もう日本に来て2週間になりますが、
まだ食べる勇気がありません。
(J)じゃあ今夜どうですか?
近所に美味い寿司屋があるんですよ。
炙りものやベジロールもあるので、
外国の方でも大丈夫ですよ。
(A)そうですか!
ぜひご一緒させて下さい。
楽しみです。
ー 寿司屋で ー
(A)うーん、
とっても美味しいですね。
まさか生魚がこんなに美味しいなんて、
ぜんぜん知りませんでした。
眼から鱗です。
これは何という魚ですか?
(J)それは魚じゃないよ。
それはね......
(寿司屋の大将)
ダメダメ、ちょっとこっち来てマスター。
(大将が小声で)
アメリカ人に、
馬刺しなんか食わせちゃダメだよ。
ダメダメ!殺されちゃうよ。
せっかく美味い美味い言って食ってるんだ、
マンボウの赤身とでも言って嘘ついとけ。
(J)分かった大将、
ありがとう。
そうするよ。
その方が無難だな。
席に戻ったマスターは言った。
これはマンボウの赤身だ。
美味しいですよね。
(A)そうですね、
マンボウはとっても美味しいです。


....つづく