● 「秘密の花園」 松田聖子

作詞:松本隆 作曲:呉田軽穂 編曲:松任谷正隆 (1983年発表)

バーネットの小説と同名のこの曲は、
松田聖子のきらめく声と指先の招きで、
幻想世界の恋物語へと変貌する。

月の輝き、岬は青く、内緒の逢引き、口説き文句。
かわしつつ、焦らしつつ、解いたロープ、漂う小舟、
流れる星と百合の花。

優位であったはずの彼は、
彼女を抱きしめた途端、心を獲られ、
入り江の奥の秘密の場所へと優しく導かれて行く。

これは松本隆が創造した魔法の呪文であり、
松田聖子の声で唱えなければ、決して目の前には現れない世界。

しかし、大きな魔法はそう簡単には作れるものではなく、
松田聖子作品としては初めて松任谷由実が詞先で曲を付けた。
そう、言葉とメロディが完璧にシンクロしているのは当然、
松任谷由実も偉大な魔法使いであるからに他ならない。

そして編曲は松任谷正隆の魔法による。
イントロ部分の弦のピチカート、トライアングルの響き。
本編を彩る分厚いストリングスは、
まるで古典名画を大スクリーン見ているような錯覚をおぼえる。
音の広がりだけでなく奥行きまで、魔法空間を無限に形成しているのだ。


● 「レンガの小径」 松田聖子

作詞:松本隆 作曲:財津和夫 編曲:大村雅朗 (1983年発表)

シングル「秘密の花園」のB面曲。
洗練されたヨーロッパの雰囲気を持った静かな名曲。
同じメンバーで制作された前作「野ばらのエチュード」と「愛されたいの」、
それらと雰囲気が似ていることもあって、財津和夫の裏三部との呼び声も高い。

A面とは対照的な作風で、
前年に発表された「制服」より、さらに深い悲しみがそこにある。
しかし、松田聖子の澄み切ったボーカル表現は、
悲しみと混在する諦念とノスタルジーを聴き手に気付かせる。

松本隆の描く心象風景と、大村雅朗が奏でる情景アレンジと相まって、
深い悲しみの中に在りながら、どこか甘く、痛みに酔いしれ、空を見上げる。
これこそが「上質なポップス」であることの証しであろう。

https://i.imgur.com/MbPtv0R.jpg
https://i.imgur.com/B2vCoGR.jpg
.