「前半戦のエース」

独走で2年ぶりにリーグを制した巨人の投手陣の牽引車は、間違いなく11連続完投勝利を含む20勝を挙げて最優秀防御率も獲った斎藤雅樹で
ある事は紛れも無い事実だろう。しかし、後半戦を棒に振りながら斎藤と同じく1点台の防御率を叩き出して12勝した槙原寛己の快投は、未だ
忘れる事ができない。斎藤と同等の強いインパクトを残したのは、前半戦だけの短い期間で大車輪の働きをしたからだった。
初勝利は三度目の登板で4月は1勝2敗と平凡だったが、5月にオール完投の4勝無傷で月間MVPを受賞してからは破竹の勢いを見せた。

6月から球宴までの期間は7勝1敗。前半だけで150回3分の2を投げて被本塁打は6本だけ、2ケタ奪三振も6度という圧巻の内容だった。
20登板で14完投は斎藤と並ぶエース的役割を果たしたと言えるが、中でもV争いのライバル広島に強かった事が素晴らしかった。最初はまだ
4.5差で追いかけていた5月5日、北別府学との投げ合いで2失点完投勝利したのに始まり、20日には大野豊と延長12回の投手戦で完封し
0.5差と追い上げた。首位に立っていた6月13日は、またも大野に投げ勝つ完封で広島に3.5差をつけただけでなく、27日にも川口和久との
勝負で対広島戦で3連続となる完封で5差としてチームの独走態勢を固めていった。7月11日の旭川シリーズでも川口と投げ合って、1失点完投
勝利で8差の首位一人旅。敗戦投手になったのは、球宴明けにバント処理の際に故障した試合だけで、広島戦は5勝1敗の防御率0.91。斎藤が
2勝2敗、桑田真澄が4勝3敗という数字から見ても、槙原の貢献度が図抜けている事が分かる。さらに槙原のすごさをいえば、11セーブを挙げて
いた広田浩章が打たれた場合を主として、クローザーとして4セーブを挙げている事ではないか。もっと掘り下げて述べれば、4戦全てで一人の
走者も出さないパーフェクトリリーフ。しかも4度とも、その後3日以内に完投勝ちを収めた大活躍だった。

前年の日米野球で、メジャーのスカウトに「連れて帰りたい」と言わせたぐらいの好投をしたのも槙原が“前半戦のエース”と成り得た理由の一つ。
そんな槙原を藤田監督は、妙に欲の無い投手と分析していた。それは最多勝などタイトルに対してもという意味があったか、だからこそ時折抑えで
起用しても大丈夫だと感じていたのかもしれない。先発でも抑えでもただ投げられれば良い・・・、結果的には無欲が生んだ槙原の「変身」と
言えなくもない。 (了)