「国家公務員1種事務官の、いわゆるキャリア官僚と言われている人たちは、
地方公務員技術屋の俺たちとは比べ物にならないくらいの物凄いスピードで出世を重ねていく。
新採のときからヒラではなく、いきなり係長級からスタートする。
出世コースを維持していくために、若干32歳で県庁へ課長級として出向してくる。
42歳で、早々と県庁の部長クラスに昇進する。
更に数年間地方で仕事をしたあと本省に戻り、本省課長以上の主要ポストについていく。
こうした展開に比べたら大阪府職員の出世レースなんか、子供の漫画みたいなもんさ。
定年間近の55歳くらいで、やっと出先の所長か、本庁課長に収まるのがやっとだ。
中央のキャリアに比べると地方公務員の出世競争なんて、まるで子供騙しさ。
府庁内だって、一人しか勝ち残れない都市整備部長への出世レースに敗れてしまうと、その先で待っているのは外部事業部への出向か、天下りの話ばかりだ。
そりゃそうだろう。上に行くほど椅子に座れる定員は減り続ける。
椅子取りゲームの頂点にあたる都市整備部長の椅子に座れるのは、同期の中でも、一人いるかいないかだ。
それも京大院卒が都市整備部長ポストや技監ポストを独占しているから阪大以下だと肩身が狭い。
部署の職員たちに顔が効くうちに、さっさと甘い蜜を求めて民間企業へ天下っていくのも得策さ。
俺もそろそろ、そんな風に自分の進退を真剣に考える時期が来たようだ・・・・」

大きくなりすぎた自分の腹を揺すりながら、土木職の柊が自虐的な笑みを浮かべています。
「府職員を辞めるつもりか?。今辞めたら、退職金がもったいないだろう、だいいちあの計算高い奥さんが、 お前さんの勝手を、絶対に承知をしないだろう」と切り込んでいく祐介を、柊が冷めた目で見つめ返します。