令和の安全保障 情報立国か? サイバー亡国か? データ漏洩が致命傷になる時代=山崎文明
ttps://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20190514/se1/00m/020/057000c
“データ主義”の時代、情報管理のあり方は国益を左右する死活問題である。だが、日本は欧米の先進国に比べて情報の安全保障に
対する取り組みで大きく後れを取っている。
 そうした懸念が平成の最後の年に表出した。ある商社系IT企業のA社で起きた、中国人労働者による情報漏洩(ろうえい)である。

現行法では裁けない

 A社で今年、中国人労働者のXが退職間際に社内のパソコンから1.5ギガバイト(ギガは10億)ものデータを中国企業バイドゥ(百度)が
運営するストレージ(データ保存)サービスに転送した事実が発覚した。送信されたデータを新聞の情報量に換算すると約5万ページ分もの
データが転送されたことになる。
 転送した事実は同社が運営するネットワーク監視機能で直ちに検出されたものの、1.5ギガバイトのデータは送られてしまった後だった。
同社はX本人を呼び出し、聞き取り調査を実施したものの、黙秘を貫かれた。その後、Xは退職届けを出し、現在は音信不通の状態だ。
真相を知る機会は失われた。
     …(略)…
 通常、この手の情報漏洩が起きた場合は「不正競争防止法」を適用し、持ち出されたデータが営業秘密に該当することを証明する必要が
あるとされている。だが、今回はデータが暗号化されていたために立証できないのだ。現在の法律では犯人を裁くことはできないのである。
 仮にA社が警察に被害届けを出したり、国際刑事警察機構(ICPO)を通じて捜査協力を相手国に求めたりしても、日本国内で刑事犯罪と
しての要件が満たせなければ、相手政府も協力できないとの立場を取ることは明らかだ。
 A社は風評被害を恐れたからか、事件を公表していない。しかし、A社の事業内容を見ると、各種の公共団体のネットワーク構築を請け
負うとともに、そのセキュリティー監視も手がけている。事態は極めて深刻である。
     …(略)…

(続く)