介護士不足を解消したければ「やりがい搾取」を今すぐやめよ
塚崎公義:久留米大学商学部教授
ttps://diamond.jp/articles/-/199582
 そもそも経済学は「需要と供給が一致するように価格が決まる」と教えている。これを「均衡価格」と呼ぶ。
企業が均衡価格を提示して求人広告を出すならば、定義上、労働力の売り手である労働者を確保できるはずである。
 つまり、企業がいつまでも労働力不足に悩んでいるのは、企業が求人広告で提示している賃金が低すぎるからである。

 しかし、介護士の場合は事情が異なる。他産業と比べて労働条件が良くないから労働者が集まらないことが明白なのだ。
介護は重労働であり、ハラスメントを受ける可能性も高いにもかかわらず、所定内賃金が労働者全体よりも大幅に低く
なっている。これでは労働力不足も当然である。
 それならば、介護士の待遇を改善して労働力を集める必要があろう。筆者は介護の現場を知らないので、具体的な
待遇改善について論じることはできないが、一つだけ筆者でもわかるのが賃上げである。重労働でつらい仕事でも、
それに見合った高い賃金を払えば、労働力は集まるに違いない。
 しかし、介護報酬は介護保険料の中から支払われていて予算に限りがある以上、安易に賃上げをする事はできない。

 現状は、介護士が不足しているが、いないわけではない。彼ら(彼女らを含む、以下同様)は、均衡価格より低い賃金で
働いている。しかも、彼らの多くは自分たちの賃金が均衡価格より低いこと、他にもっと待遇の良い職場があることを
知りながら働いているはずだ。
 彼らに直接、話を聞いたわけではないが、きっとその多くが「他人の役に立っていると実感できて、仕事にやりがいを
感じられるから」仕事を続けているのではなかろうか。仕事にやりがいを感じていないのであれば、もっと待遇の良い職場
に移るはずだからだ。
 そうだとすると、それは政府が彼らを「やりがい搾取」していることになるのではなかろうか。そして、この場合の「政府」は、
われわれ一般国民なのではないか。

 もしも、介護保険料の値上げは嫌だという国民が多いのであれば、それはわれわれ一般国民が介護士を「やりがい搾取」
していることと同義ではなかろうか。

(続く)