成長の源泉はどこに(中) 雇用と企業の流動性重要
向山敏彦 ジョージタウン大学教授
ttps://www.nikkei.com/article/DGXKZO43175130R00C19A4KE8000/
ttps://www.nikkei.com/article/DGKKZO43175130R00C19A4KE8000/
 半世紀以上、経済成長について多くの研究がなされた。その成果の一つは、GDP拡大には労働と資本の生産要素が
増えることだけでなく、同等かそれ以上に生産性(要素あたりの生産価値)の上昇が大切という結果だ。生産性を高める
要因として、先進国ではイノベーション(技術革新)や人的資本の蓄積、途上国では新技術の導入や法制度の整備が
挙げられる。最近の研究では、企業経営者の能力も生産性の違いをもたらす要因として強調される。
 並行してここ半世紀、マクロ経済学の研究は、産業・地域・消費者・企業といったミクロ的なレベルでの分析を積極的に
取り入れてきた。「マクロ経済学のミクロ的基礎」と呼ばれる手法だ。理論的な基礎づけのみならず、近年はミクロレベルの
データを用いて定量的な分析をすることが研究の主流だ。
 生産性の文脈では、まずマクロの生産性の上昇をミクロレベルの変化と関連付けることが分析の第一歩となる。マクロ
の生産性を上げるには、各企業の内部で生産性が上昇する(内部効果)か、生産性の高い企業が拡大して生産性の低い
企業が縮小する(再配分効果)かのどちらかが必要だ。
 内部効果と再配分効果の相対的な重要性については米国経済を中心に多くの実証研究がなされてきた。産業ごとの
違いもあるが、一般的には双方とも重要と考えるのが妥当だろう。
 再配分効果にとって大切なのは、要素市場(特に労働市場)の流動性と企業の自由な参入・退出だ。日本の労働市場の
流動性は米国に比べて極端に低く、企業の参入・退出率も低い。既に正規社員の労働者の職の安定性からみるとプラス
だが、生産性の高い企業の参入や成長を妨げる要因にもなっていると考えられる。
(続く)