移民という「自死を選んだ」欧州から学ぶこと
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■欧州の指導者たちの決断が招いた事態

 『西洋の自死 移民・アイデンティティ・イスラム』は、英国のジャーナリストであるダグラス・マレーの問題作にしてベストセラー、
『The Strange Death of Europe: Immigration, Identity, Islam』の邦訳である。
 その書き出しからして衝撃的だ。
 「欧州は自死を遂げつつある。少なくとも欧州の指導者たちは、自死することを決意した」
 そして、恐るべきことに、この書き出しが単なるあおり文句ではなく、否定しがたい事実であることが、読むほどに明らかになって
ゆくのである。
 「欧州が自死を遂げつつある」というのは、欧州の文化が変容し、近い将来には、かつて西洋的と見なされてきた文化や価値観が
失われてしまうであろう、ということである。つまり、われわれがイメージする欧州というものが、この世からなくなってしまうというの
である。
 なぜ、そうなってしまうのか。それは、欧州が大量の移民を積極的かつ急激に受け入れてきたことによってである。
 本書には、移民の受け入れによって、欧州の社会や文化が壊死しつつある姿が克明に描かれている。1つの偉大な文化が絶滅
しつつあるその様には、身の毛がよだつ思いがするであろう。しかも恐ろしいことに、この欧州の文化的絶滅は、欧州の指導者たち
の決断が招いた事態なのである。
 もっとも、この移民の受け入れによる文化的な自死という戦慄すべき事態は、対岸の火事などではない。これは、日本の問題
でもある。

■「保守」のねじれが招いた日本の「自死」

 本書が日本人にとって必読である理由がもう1つある。それは、移民やアイデンティティという政治的に極めてセンシティブな
問題を考えるにあたり、本書の著者マレーに匹敵するような優れた書き手が、残念ながら日本にはいないということである。

 さらにややこしいことに、保守系の論者たちがこぞって支持する安倍晋三政権こそが、本格的な移民の受け入れを決定し、
日本人のアイデンティティーを脅かしているのである。これに対して、彼らは何の批判もしようとしない。こうなっては、日本に
おいて「保守」と呼ばれる論者に何を期待しても無駄である。

(続く)