種田:当時の人は、ジョン・フォードのモノクロを見て、夜のシーンなのに空が明るかったり、
昼のシーンなのに空が暗いことに驚いたんです。それはどのシーンも昼間に撮影しているせいなんですけど、モノクロの中にグレートーンの階調があって、写真の美学が生きているんですよね。

―インタビューでも「白黒こそがフォトグラフ」という発言を残してますよね。

種田:映像のトーンには相当うるさかったみたいですね。それはカラーになっても同じで、
『静かなる男』はカラーですが、発色が今の映画とは全然違いますよね。初期のフィルムは発色のコントロールが難しかったので、光を強く当てて撮影したり、
補正したりいろんな工夫をすることで、映画の世界が本物らしく見えるように映像にも演出を加えていた。
つまりそれは絵画的な美しさだったわけです。一方で最近のカラー映画というのは、解像度が良すぎるせいか、ほぼ実物の見た目通りに写るので、
こういう油絵みたいな映画がなくなってきました。かつての絵画のような質感の映像を安易に手放してしまっていいのか、これからの映画の作り手は真剣に考える必要があると思います