ブアマンの思想は、反近代、反合理主義で、その対極にある原初的な
人間のエネルギーに価値を見出している。
例えば「脱出」では、お洒落な都市生活をエンジョイしている会社員たち
が、カヌーで川下りを楽しんでいると、野性的な山の民と遭遇し生命がけ
で戦わざるを得なくなり、そこでは都市生活など何の役にも立たないこと
が露呈する。
また「エクソシスト2」では、古代から蘇えった悪魔に対し、近代的な
キリスト教は無力である一方、一人の少女が超能力を発揮し、それは人間の
原初的なエネルギーの発露であるという示唆がなされる。
それらのテーマの集大成が「ザルドス」と見られる。それはあたかも60年代
の反体制ムーヴメントが都市生活から離れ、コミューンを形成し、ドラッグで
人間の能力の可能性を拡張しようとしたのと軌を一にしており、まさにブアマン
はヒッピーの延長にいることがよくわかる。
しかし、そんなものには何ら根拠がないことが、その後のヒッピームーヴメントの
展開の中で明確になってしまい(当たり前だがw)、ブアマンの作品も生彩を欠く
に至る。
ということは、意外にも思想に忠実な監督かつ作品だったということだろうか。
とはいえ、この「ザルドス」という作品から、今の人たちが何を読みとれるかは
かなり疑問。忘れ去られた監督という位置づけにしかなるまい。