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【小説】スナック眞緒物語【けやき坂応援】
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0001名無しって、書けない?(東京都)
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2019/01/26(土) 22:18:19.64ID:xbJzQvgN0
宮田愛萌さんのブログや「ひらがな推し」やでネタにされている架空空間「スナック眞緒」を舞台とした小説のスレです。

なお、「ひらがな推し」や宮田ブログでの「スナック真緒」での井口真緒さんと宮田愛萌さんはひらがなメンバーとは別人格という設定ですが、
ここではひらがなメンバーであるのかないのかというのは曖昧にします。
タイトルと冒頭と末尾の文は、宮田愛萌さんがブログで書いているのをテンプレとして使いました。
原案や参照にしたものがある場合には、その小説が完了したとき必ず明記します。
0098名無しって、書けない?(東京都)
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2019/02/12(火) 22:10:46.22ID:FR+1fhrM0
エル・エステ(その28)
人並みに成長して私も中学生となりました。
その年頃の女の子の大半がそうであるように、父とは距離を置くように私もなりました。
ただ、何を切っ掛けとしてそういう移行が起こるのかは一般的には曖昧なようですが、
入江莉緒の存在を知ったことが原因であるというのが私の場合にははっきりしています。
その入江莉緒ですが、あの日に映画のポスターで見て以来、その名前を目にすることはありませんでした。
中学の入学祝としてパソコンを買ってもらいました。
自然と触れ合うことのほうが好きだったので、パソコンにはあまり興味はなかったのですが、必ず一日に一回は起動させました。
それは「入江莉緒」を検索するためでした。
幼い頃とは違って、父に対しての興味も薄れ、大人の事情も理解できるようになったのに、
なぜ入江莉緒にそこまで執着していたのかは自分でもよくわかりませんでした。
結果はいつも空振りに終わっていたのですが、検索しなければ落ち着かず、就寝前の儀礼に半ばなっていました。(続く)
0099名無しって、書けない?(東京都)
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2019/02/12(火) 22:12:06.22ID:FR+1fhrM0
エル・エステ(その29)
入江莉緒の出現によって、絶対的であるということから相対的であるということへ私の世界は変化しました。
それと連動するかのように、太陽や月や星の動きに対する見方も修正されました。
つまり、自分が主役であるということから自分は取るに足らないものかもしれないということへ矯正されるのに伴い、
天動説的な見方から地動説的な見方へと自然と修正されたような気がします。
夏には太陽の高度は高いのに、なぜ月は低くなるのかという理由はそれほど難しくなく、自力で答えを出しました。
左から順に、太陽、地球、月が一直線上に並んでいる状態において、
地軸は夏には太陽側に傾いているため、北半球では太陽高度は高くなります。
で、半回転だけ地球自転させれば、昼だった地点は夜になります。
そのとき、地軸が太陽側に傾いていることは変わらないので、北半球では月の高度は低くなるというわけです。(続く)
0100名無しって、書けない?(東京都)
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2019/02/13(水) 22:38:26.97ID:SoQMj/PC0
エル・エステ(その30)(続く)
中二のときに体験した二つの授業は今でも鮮明に覚えています。
一つは春の体験学習です。
机上の知識よりは自分で好奇心をもって見聞を広めるという名目でした。
学校側が指定したいくつかの候補地から生徒のほうが選択をして見学を行うというもので、私は諏訪大社を選びました。
上社本宮に参拝した後に、宝物殿を見学しました。
名刀として名高い梨割の太刀や武田信玄が戦の折りに鳴らしたと言われる宝鈴などが館内にはありました。
どれも見ごたえのあるものばかりでしたが、最も興味深かったのが、つい数日前、本宮から見つかったという古文書でした。
それは、人柱にされた美しい娘を龍が救ったという奇譚の原典というべきものだったのです。
古語の上にくずし字で書かれていたので読めなかったのですが、係の人がその読みと意味を詳しく説明してくれました。
メモを取りましたが、一人で全てを書くのは無理だったので、一緒に来ていたクラスメイトと分担し、私は次の一文を記録しました。

天延三年七月一日辛未、昼頃、干上がりし諏訪湖の湖底に美しき娘を生き埋めにせむとしきとき、
突然、雲ひとつなかりし空が真っ暗となり、鼓星、青星、現(あらわれ)いで、青星の下(しも)に龍の赤き目が打ち出でけり。

鼓星はオリオン座、青星はシリウスのことで、シリウスの下に龍の赤い目が現れたらしいとあります。
オリオン座もシリウスも冬の星ですし、しかも昼間にそんなものが現れるわけがなく、
昔の人の根も葉もない想像であるとこのときには思いました。(続く)
0101名無しって、書けない?(東京都)
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2019/02/14(木) 22:35:18.44ID:JvstKv520
エル・エステ(その31)
もう一つは秋に受けたワークショップ形式の総合学習です。
暗記中心や知識偏重ではなく、自ら問題を考え抜くための姿勢を身に付けるために、生徒全員が積極的に参加するというものでありました。
そのときのテーマは「占いは是か非か」というものでした。
中学生くらいの女の子の多くは占いが大好きですが、私は毛嫌いしていました。
自分の運命が他の何かによって決定されるという女の子特有の受け身的な態度が気に入らなかったからです。
入江莉緒が手紙で非難した「何か驚くべき出来事によって自分の運命が決定される」という父の態度に対しても、もし事実であるなら、とても嫌でした。
流されやすそうだと表面的には判断されていたかもしれませんが、
骨折したくらいでは人前ではけっして涙を流さなかったし、内面では人一倍強い意志を持ち得ているという自負はありました。
さて、まず初めの総論のとき、予想通り、女子の大半は「是」で男子の大半は「非」で論争が巻き起こりました。(続く)
0102名無しって、書けない?(東京都)
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2019/02/14(木) 22:37:40.62ID:JvstKv520
エル・エステ(その32)
次に、個別の占いについての議論になり、最初に血液型占いが取り上げられました。
私によくちょっかいをかけていたある男子は、ときどき私を横目で見ながら、興奮して喋っていました。
「遅刻するとか、約束を守らないとかの欠陥が多い人間の本当の原因は、甘やかされて育てられたとか他人のことを考えないとかの社会常識が欠落しているためだよ。
でも、それを声に出せば、わだかまりを残すことになる。
そこで、『あいつはB型だから仕方ない』と片付けておけばその場が収まる。
だから血液型占いのせいにする。それは自分で自分の言い訳をするときにも使われている。
だから、占いを信じる奴なんて、甘えているんだよ、甘えだよ」
その男子の言い分に共感するところはあったにせよ、したり顔での攻撃的な物言いはとても幼稚に感じました。
それ以上に、授業そのものにうんざりして、一刻も早く終わってくれないかと願っていました(続く)
0104理佐ちゃんと赤い糸で結ばれてらしい人(庭)
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2019/02/16(土) 00:30:23.89ID:0h7qy6Tca
>>103
いつも執筆ありがとうございますm(__)m
0105名無しって、書けない?(東京都)
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2019/02/16(土) 23:18:32.50ID:ZTZrLqy/0
わざわざのコメント、こちらこそありがとうございます。
0106名無しって、書けない?(東京都)
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2019/02/16(土) 23:19:27.97ID:ZTZrLqy/0
エル・エステ(その33)
血液型占いの次は占星術が取り上げられました。
これにも興味はなかったのですが、クラスの誰かが言った次の一言にはっとさせられました。
「星座の月日の期間というのは何なのですか?」
たとえば占星術でのいて座の期間は11月23日から12月21日までで、私の誕生日は12月2日なのでそれに当たります。
でも、いて座というのは夏の星座で冬にはほとんど見ることはできません。
その指摘を聞くまで、なぜおかしいことをおかしいと疑問に思わなかったのか?
何も考えずに、疑似的に自分は生きてきただけではないのかと恥ずかしくなって、俯いてしまいました。
クラス担任は若い女性で、教科は理科担当だったので、常日頃から気軽に星のことなどを質問していました。
俯いていた私の様子を見ていたその先生が、「どうしたんですか?柿崎さん」と声をかけてくれました。
「ちょっと考え事をしていまして」
「占星術の星座の月日の期間についてですか?それで、なにかわかりましたか?」
「いえ、ただ、占星術の期間と実際に見ることのできる星座とは季節が逆な気がします」
「それで正解ですよ。実は、占星術の期間というのは、実際に夜に見られる期間を表しているのではなく、
太陽が南中したときにその中にある星座の期間を表しています」
「でも、太陽が出てるなら、その眩しい光で星座は見えないですよね。なんでそんなことがわかるんですか?」と誰かが質問しました。(続く)
0107名無しって、書けない?(東京都)
垢版 |
2019/02/16(土) 23:20:05.67ID:ZTZrLqy/0
エル・エステ(その34)
そのとき、なぜか私の頭の中で龍の赤い目が光りました。
それに誘導されるように、全神経を集中させて、地球の公転軌道と星座の配置を脳裏に思い浮かべました。
よっぽど変な形相をしていたのか、「柿崎さん、なにか気づいたようですね。よかったら黒板で説明してください」と先生が促しました。
私は黒板の中央に点を打ち、それを中心とする小さい円と大きい円を描きながら、考えを必死に整理しました。
「この点は太陽を、小さい円は地球の公転軌道を、大きい円は星座が常駐している天球を表しています」
時計の文字盤でいえば12時の位置にあたる大きい円の上端を指さしながら続けました。
「大きな円の上端にいて座があるとします」
同じく、時計の文字盤でいえば12時の位置にあたる小さい円の上端を指さしながらさらに続けました。
「小さな円の上端に地球があるとします。
このとき、地球の上半分は夜で、深夜0時にいて座は南中して、その様子は地球上から見ることができます。
いて座は夏の星座なので、このときの季節は夏ですね」
時計の文字盤でいえば6時の位置にあたる小さい円の下端を指さしながら続けました。
「半年たてば、半回転の公転運動を地球はして、この小さな円の下端に地球はやってきます。
半年たったので、このときは冬ですね。
このとき、地球の上半分は昼で、正午にいて座は南中しています。
太陽の強烈な光のため、その様子は見ることはできませんが、いて座は南中していることに間違いありません。
たとえば6月2日の深夜0時に南中した星座を記録しておけば、それから半年後の12月2日の正午にその星座の中に太陽が入っています。
だから、実際に見えなくても、太陽が南中したときにその中にある星座はわかるというわけです」
「お見事です、柿崎さん」と先生は誉めてくれました。(続く)
0108名無しって、書けない?(東京都)
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2019/02/17(日) 23:17:52.87ID:Nw9f94CL0
エル・エステ(その35)
その後、先生は補足をしてくれました。
歳差と呼ばれる現象のため、地球の自転軸の向きはずれることで、太陽が南中するときに入る星座も年ごとに少しずつ前倒れになるそうです。
占星術が成立したのは今よりも2200年ほど前で、その時点での南中星座が今でも使われているため、
占星術で示されている期間と比べ、現在、太陽が南中するときに入る星座はほぼ一か月前にずれているという説明でした。
だから、私の誕生日が入っている11月23日から12月21日までの期間に太陽が南中するときに入る星座はいて座ではなく、
本当はさそり座ということになります。
「占星術における星座の期間の区切りが昔と今ではずれているにもかかわらず、それを今でも適用しているのはうさん臭い」
そういう声が男子たちの間から出ましたが、私はそういうことはどうでもよく、ある考えにとらわれていました。
その後、何が話されて、どういう結論になったのかは覚えていません。(続く)
0109名無しって、書けない?(東京都)
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2019/02/17(日) 23:18:41.84ID:Nw9f94CL0
エル・エステ(その36)
授業が終わると、職員室に駆けこみました。
「先生、真冬の深夜に南中するカノープスは、真夏の正午に南中していることになりますよね」
そう質問して、諏訪大社で取った古文書のメモを見せました。
「でも、雲ひとつなかった空が真っ暗になったというのはどういうことなんでしょうか?」
「もしかして・・・」と言いながら、スマホを取り出して、メモに書かれていた「天延三年七月一日辛未」を先生は検索し始めました。
「ああ、やっぱり」と言いながら、検索結果を見せてくれました。
そこには「皆既日蝕」の文字がありました。
「なるほど。皆既日蝕で空が真っ暗になったため、オリオン座もシリウスもそしておそらくカノープスも見えたということですね」
「たぶんね。でも、そのことをはっきりされるためには細かい厳密な計算で検証しなくちゃいけない。
手伝ってあげたいところだけど、私の力じゃ無理ね」
何でも、天体の運動を厳密に調べるためには球面幾何という専門の学問が必要で、
さらに歳差による春分点の移動や、標高の高い長野では高度視差とかいったものまで必要となるそうです。
そして、天文学を本格的に研究しているのは東京大学と京都大学くらいしか日本にはないそうです。
「直接の知り合いという人はいないのよね。でも、伝手をたどって専門の人に辿り着いたら、頼んであげる」
私のために骨を折ってくれるというその言葉はとても嬉しく、先生を信じて気長に待とうと思いました。(続く)
0111理佐ちゃんnon・no表紙おめでとう!(庭)
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2019/02/19(火) 11:52:06.65ID:kEu6jBOFa
めっちゃ難しい話になってるw
0112名無しって、書けない?(東京都)
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2019/02/19(火) 22:43:08.15ID:zzIIs+B20
もがいて書いているうちに、当初は全く意図しなかった方向に話が進んでしまいましたw
0113名無しって、書けない?(東京都)
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2019/02/19(火) 22:45:43.25ID:zzIIs+B20
エル・エステ(その37)
その日、いつも通りに就寝前に「入江莉緒」を検索しました。
名前を書き込んでENTERキーを押すとき、「皆既日蝕」を即座に表示させた先生のことが思い出され、何か勘のようなものが働きドキドキしました。
その予感は当たり、初めて「入江莉緒」の検索結果を表示させることに成功しました。
天にも昇るような気持ちになり、思わず私はガッツポーズをしてしまいました。
でも、そのすぐ後には、なんでこんなに喜んでいるんだろう?と自分の気持ちを自分で不思議に思いました。
「入江莉緒」の検索をやり続けたことは単なる惰性でしかないと自分でも思っていたからです。
無意味な繰り返しだったとしても、経過したその年月の蓄積というものは実体を身に付けてしまうものなのでしょうか?
さて、客席数が100人にも満たない東京にある小劇場の舞台に脇役として出演することを知りました。
表示されている開演日と卓上のカレンダーとを見比べて、冬休み期間中であることに気づきました。
え?まさか観に行きたいと思っているの?とまたも自分の気持ちを自分で不思議に思いました。(続く)
0114名無しって、書けない?(東京都)
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2019/02/19(火) 22:47:17.63ID:zzIIs+B20
エル・エステ(その38)
時間は前後しますが、中二の夏に優佳は日本に戻ってきました。
長野を訪れたあの後、お父さんの海外勤務で、優佳は日本を離れていたのでした。
帰国したとき、すぐに連絡をくれたのですが、直接会うことはしませんでした。
編入手続きの準備やら久々の日本の生活への順応やらで慌しかった上に、
帰国前に提出した日本哲学グランプリの中学生の部で受賞して、
受賞者にだけに道が開かれる国際哲学オリンピック選考会の課題で優佳は忙殺されていたからです。
定期的に電話連絡しあっていましたが、諏訪神社でメモを取ったときには古文書のことは話しませんでした。
話さなかった理由は特にないのですが、龍などという架空上のものに思い入れしているとは思われたくなかったかもしれません。
でも、科学的な裏付けがありそうだということが見えてきたので、その詳細を話しました。
優佳はとても興味を示してくれました。(続く)
0116理佐ちゃんnon・no表紙おめでとう!(庭)
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2019/02/20(水) 23:49:49.25ID:IDsprRala
>>115
乙ですm(__)m
0117名無しって、書けない?(東京都)
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2019/02/21(木) 22:48:02.90ID:2Dl8NMPF0
どうも、わざわざ、ご丁寧に。
0118名無しって、書けない?(東京都)
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2019/02/21(木) 22:49:36.20ID:2Dl8NMPF0
エル・エステ(その39)
その後、12月のはじめに再び優佳から電話連絡がありました。
国際哲学オリンピック選考会でグランプリを獲得して、世界大会の日本代表となったことを教えてくれました。
自分のことのように嬉しくなり、私は何度も祝辞を述べました。
「それでね、さっそく代表者のための研修が始まったの。
そのときに委員会の東大の先生に、芽実が言ってた古文書のことを話したの。
その先生が同僚の天文学の先生に話したら、とても興味を持ってくださったようで、ぜひ見たいと仰ったそうなの」
「うん、わかった、今すぐファックスで送信する」
「急がなくてもいいよ、いまは手が離せなくて、20日過ぎじゃないと余裕はないそうだから」
「じゃあ、そのときあたりに送信する」
「芽実、久々に会いたいから、どうせなら冬休みに東京まで来ない?
そのときに古文書の写しを持ってくればいい。
もちろん泊まるのは私の家ね、歓迎するよ!」
私に異存はありませんでした。
母にお願いすると、「もちろん、いいよ。優佳ちゃんと会えるの楽しみだね」と言ってくれました。(続く)
0119名無しって、書けない?(東京都)
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2019/02/21(木) 22:51:12.56ID:2Dl8NMPF0
エル・エステ(その40)
東京に行く前日のことでした。
私が世話になるお礼として。優佳の家への進物の配送依頼で母は外出していました。
私がダイニングでブラックコーヒーを飲んでいると、父が屋根裏部屋から降りてきました。
「今日、どうしてお仕事休んでいるの?何か私に言いたいことがあるんじゃないの?」
「いや、特にないよ」
「私のほうは二つほど訊きたいことがあるよ」
「言ってごらん」
「私が小学一年生の冬に北の山に登ったときのこと覚えてる?」
「ずいぶん昔のことだったね。もちろん覚えている。危険な目に遭わせてすまなかったね」
「ううん、あの山に連れて行かれたことは心の底から感謝している。パパが私にくれた最高の贈り物だった」
「そうかい」
「でも、『芽実、見えるか!』とパパは言ったけど、あのときにはパパには龍は見えていなかったんでしょ?」
「・・・・」
「本当は見えていなかったのね。子供のころには見えたの?」
「ああ」
「大人になっても龍を追い求めたけど見えなくなってしまったのね。
幼い私になら見えると思って、代わりに見せたかったの?」
「そうかもしれない」
「私はまだ龍を見れるとパパは思う?」
「芽実はどう思っているのかい?」
「私はまだ見ることができると信じている」
「じゃあ、きっと見ることができるよ」(続く)
0120名無しって、書けない?(東京都)
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2019/02/21(木) 22:52:23.36ID:2Dl8NMPF0
エル・エステ(その41)
「二つと言ったけど、いくつも訊いちゃったね。本当は一番訊きたかったことがあるんだけど・・・」
「かまわないよ、言ってごらん」
「入江莉緒さんって人、覚えてる?」
父は目を伏せ、少し時間をおいてから答えました。
「さあ?知らない名前だね」
「嘘よ、知っているはずよ。忘れたの?」
「じゃあ、きっと忘れたんだね」
悲しげな顔をした父を見て、尋ねたことを私は後悔しました。
その場の重い空気から逃げるように私は庭に出ました。
慰めを求めて庭の木に抱き着いたら、樹皮の下に脈動を感じました。
まだ感じられることに安堵し、「大丈夫、きっと龍をもう一度見ることはできる」と私は呟きました。
踵を返して、郵便受けから私宛の封筒を取り出し、自室に戻りました。
封筒の中身を取り出し、机の上にあった絵葉書の横に置きました。(続く)
0121名無しって、書けない?(東京都)
垢版 |
2019/02/21(木) 22:53:30.74ID:2Dl8NMPF0
エル・エステ(その42)
その日の朝、起きると、枕元に小箱が置かれていました。
小箱の中身を取り出し、それを机の上に置きました。
自室を出て、ダイニングに入りました。
「芽実が一週間もいなくなるなんて寂しくなる」と母は私の頭を両手で撫でてから、「すぐに朝食の支度をするから」と言いました。
テーブルには父が座っていました。
「パパ、昨日はごめんね。そして、ありがとう。大切に受け継ぐね」
食事を済ませ、スーツケースを取りに自室にいったん戻りました。
机の上には、新宿のタイムズスクエアビルの絵葉書、龍の骨、入江莉緒の出演する劇団のチケットの三つが並んでいました。
感慨深くしばらく眺めていました。
「芽実、早く、パパが駅まで車で送っていくから」と部屋の外から母の声が聞こえました。
その三つをスーツケースに大事に収めました。
私は興奮を抑えることができませんでした。
初めて「東京」を知るのです。(了)
0122名無しって、書けない?(東京都)
垢版 |
2019/02/21(木) 22:58:13.05ID:2Dl8NMPF0
スペイン人ビクトル・エリセ監督の映画「エル・スール」が原案です。

主人公の少女の世界観ができ上っていく様子は同じくスペイン人ホセ・オルテガ・イ・ガセ―の「個人と社会」および「形而上学講義」を参照にしました。

また、入江莉緒の手紙のところはヘンリー・ジェイムズ「密林の獣」を参照にしました。

長野県の木崎湖に現れる龍灯の正体がカノープスであるというのは7、8年前のNHK-BS「コズミックフロント」から知識を得ました。
0123名無しって、書けない?(東京都)
垢版 |
2019/02/21(木) 23:03:21.88ID:2Dl8NMPF0
社の男神が下社の女神のもとへ訪れに行った足跡であるという以外に、諏訪湖の御神渡りが龍神伝説によるものであるというのは本当ですが、
その後に続けた奇譚やそれに関係する古文書というのはでっち上げです。
天延三年七月一日辛未に皆既日触が起こったというのは本当で、場所は近畿地方というのははっきりしていますが、
長野で起こったかどうかは定かではありません。
また、時刻も適当です。

「入江莉緒」というのは映画「エル・スール」でそれに相当する「イレーネ・リオス」を無理やり変換したものです。
ドストエフスキー「白痴」を黒澤明が映画化したとき、「ナスターシャ」を「那須妙子」と力任せに変えたのを真似してみました。
0124名無しって、書けない?(東京都)
垢版 |
2019/02/22(金) 22:05:43.89ID:tmfaVrNn0
書き忘れていた。
柿本人麻呂が詠んだ歌

東(ひむがし)の 野にかぎろひの 立つ見えて かへり見すれば 月傾(かたぶ)きぬ

に出てくる「かぎろひ」を類推させることを書いて、それが黄道光であるように断定しているのですが、
夜明けの太陽光だと解釈するのが一般的です。
黄道光と解釈するのはあくまで有力ならざる説の一つです。
0125名無しって、書けない?(東京都)
垢版 |
2019/02/22(金) 22:12:37.38ID:tmfaVrNn0
エル・エステ(後書き)
龍神伝説とカノープスをモチーフにした物語を柿崎芽実を主人公として書いてみたいと思っていた。
「龍の娘」という仮タイトルまで考えてはいたのだが、それ以上は何も思い浮かばなかった。

また、一方で、映画「エル・スール」を原案としたものも書きたいとも思っていた。
「エル・スール」では雪国と南国の対比が描かれている。
そこで、雪国出身のメンバーの長沢菜々香(山形)、志田愛佳(新潟)、井口眞緒(新潟)を主人公としてリストアップした。
ただ、三人ともとても魅力的ではあるが、その映画の主人公のイメージからはかけ離れている上に、
東京にも雪は降るので物語が成立せず、これもいったんは頓挫した。
でも、雪国と南国の対比を田舎と都会の対比にすり替えれば、東京への憧憬というのが不自然ではなくなると思い、
スール(南)をエステ(東)にタイトル変更して、長野を舞台にすれば、二つを統合したストーリーが作れるのではないかと思って見切り発車した。
0126名無しって、書けない?(東京都)
垢版 |
2019/02/22(金) 22:17:55.16ID:tmfaVrNn0
ところが、原案とした映画を観てもらえれば、その問題点はわかると思うが、
後半の筋をそのまま展開するのは憚られるので、途中で大きく変更することにした。
そのためストーリーを絞り出すのが相当苦しかった。
天文現象は主人公の少女の世界観とシンクロさせる程度にしか当初は考えていなかったが、
ストーリー展開の空白部分を埋めるように特に後半では多用した。
映画「エル・スール」と龍神伝説の二つを無理やりに結び付けて、しかもそのほころびを天文現象のパッチワークで隠して、
見え見えのつぎはぎだらけのものができ上ってしまった。
ただ、漠然とではあったけど前々から表現したいと思っていた二つのものを形にできて、
咽喉のつっかえが取れたようで今はすっきりしている。
何度も挫折しかける度に、イメージを湧き上がらせてくれる源泉となった可憐な柿崎芽実さんに感謝したい。
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