「そう考えるのが当然よね」

「事実は小説より奇なり。だな」

目を開いた守屋茜とルームミラー越しに目が合った鳴滝が、そう相槌を打った。

「でも、そんな事ってあり得るのかしら?」

既に口癖と化したその言葉を守屋茜が口にした。

「俺からすれば、その方がいろいろと辻褄があうように思えるけどな」

「それはそうかもしれないけど……」

鳴滝の問いかける視線を避けるように、守屋茜は窓の外に拡がる木々の緑へと目を向けた。そして、深い溜め息をひとつ。

「君は『思えない』じゃなくて『思いたくない』んだろ?」

かつて守屋茜から向けられた言葉を、鳴滝がそのまま彼女へと返した。

「残酷な現実から誰もが目を背けたがる。犠牲になるのは、いつだって子供達さ」

続けて語られた鳴滝の言葉が何を指しているのか、その場の誰にも分からなかった。
車内が沈黙に包まれた時、遠心力が皆の身体を左へと押しやった。

「鳴滝さん、こちらの道ではありません」

市街地へと続く道から、右へと伸びる荒れた小道へとハンドルを切った鳴滝へとクリスが慌てて注意する。

「俺達は尾行されているらしい」

「尾行?」

「見ちゃダメ!」

鳴滝の言葉に、振り返ろうとした尾関を守屋茜が制止した。
確かに、鳴滝達の乗る車の後方に青いスポーツタイプの乗用車が一定の距離を置いて着いて来ている。

「たまたまじゃないですか?」

土が剥き出しになった農道のような路面から伝わる振動に、尾関が顔を歪めながら言う。

「いや、明らかに尾行だな」

サイドミラーでその車へとちらりと目をやりながら、鳴滝が真顔で呟いた。