『中1の軍曹』

試合に負けた時は、いつも泣いている気がする。
今日の練習試合は僕と同じ時間帯に重なっていて、結果は知らない。
でも、みんなで帰っている間、ずっとタオルで顔を覆いながら後ろの方を歩いていたから、負けたはずだ。
「あの、キャプテン」
僕は菅井先輩を呼び止めて、話しかける。
「守屋、負けたんすか?」
「うん負けたよ…いつもああなるの?」
「はい、今日いっぱいは引きずると思います」

前も見ないで歩く茜ちゃんを引き連れて帰らなければならないのは、最終的にはこの僕しかいないのだ。
やっと二人きりになった頃、僕はパン屋の前で立ち止まった。
「茜ちゃん、ここで待っててね」
僕はカバンから小銭入れを出して、パン屋へ入った。
「いらっしゃいませ」
この街で一番美人の渡辺店長が出迎えた。僕は小銭入れを見る。
80円で買えるパンはきな粉パンぐらいであり、それ一つだけをトレイにのせた。
すると、渡辺店長が勝手にもう一つのせた。
「もう店閉める時間だから、サービス」
僕は急いで店を出た。本当は千円札も入っていた。

その嘘が神様を怒らせたのか、はたまた因果応報かもしれないが、涙ときな粉でむせ返る茜ちゃんに結局ジュースまで買うことになってしまった。
いつも茜ちゃんは、そうやってちょっとずつ笑顔になってくれる。