「あっ。」小さな声がした。
「ん?」僕は声のある方を見た。
そこにはついこの間、引っ越してきた。という彼女の姿があった。
「ここの大学だったんですね。」
嬉しそうに笑う。その笑にはただならぬ気品が存在した。
「何年生?」
「一年生です。」
「僕は二年生。」
「あっ、じゃあ先輩なんですね。」
「そういえばこんなところでなにしてんの?」
「ここの図書館、広いと聞いてどんなところかな?って見に来たんです。」
「そしたらお隣さんがいて驚いちゃって。」
「そうなんだ。」
「そういえば。なんか喉、渇きません?宜しければ何処かでお茶しませんか?」
僕は暫し口を閉じた。
僕の人生において女性からお茶をしませんか?などと言われるのは初めてだったからだ。
「駄目、ですか?」
僕の顔を伺う彼女。
「いや、いいよ。」
「やったー。」
図書館に響き渡る。といえば大げさだが、そこそこ大きい声で無邪気に喜んだ。
しーっ。といいながら唇に人差し指をあてて、微笑む彼女。エアコンの風が僕の前髪を揺らし、窓の外ではアヤメが咲いている。