『Flower』

植物園は独特な匂いがする。
ビニール内に濃縮された自然の香りが半発酵を繰り返したのちに、芳ばしくも優しい淀みとなり地面に染み付く。
高湿度の空気はその香りを重たく発散させ、人間の吐息さえも軽く舞い上がってしまうほどだ。
その女性の息に任せて流れ出た声は環境に溶け込んだ質のものであり、どこか人間らしくない透き通った声だった。
「いつも、歌ってますね」
「あ、聞いてたんですか。こうやって歌っていると花が元気になってくれる気がするんですよ」
「相当お上手なようですが、ご職業は?」
「ええ、歌手です。て、言っても全然有名じゃないんですけどね。良かったら今夜ストリートライブやるんで見に来てくれませんか?」

「よかったですよ」
ストリートライブは思いのほか見物人が多く、ギターケースにコインを入れて帰る者もいた。
すべての客が去ってから声をかけると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「見に来てくれたんですか〜」
「ええまあ、よかったらこの薔薇もどうぞ」
「ありがとうございます」
彼女は薔薇を胸ポケットに差し、ギターケースを片付けた。本当によく花の似合う女性だった。

また次の日の朝、彼女は花の前に座り込み、歌声を響かせる。
花びらに調子を窺いながら誰にも負けない太陽のように明るい笑顔で、話すように歌いかける。
彼女の歌声に揺られながら、僕を含める幾つもの生物が今日も夢を見続けている。
「いつでも君の笑顔に揺れて〜太陽のように強く咲いていたい〜♪」

さて、ここでクエスチョンです。
ヒロインは誰でしょう?ヒントは最後の歌。