(1)台頭するイランとシーア派 | 中東から世界を見る視点 |集英社新書
http://shinsho.shueisha.co.jp/column/middleeast/001/index.html

§イスラムのジハードに「国境」はない

 シーア派についての私の直近の記憶は、2016年9月、シリアの隣国レバノンの首都ベイルートでの、
シーア派組織「ヒズボラ(神の党)」についてだ。ベイルート南郊のパレスチナ難民キャンプ「シャティーラ」を
訪ねた時、難民キャンプに入る手前の地区の路地で、ヒズボラのナスラッラ党首の写真が添えられた
若い兵士の大きなポスターを見た。若者の名前の前に「シャヒード(殉教者)」とアラビア語で書かれていた。
http://shinsho.shueisha.co.jp/column/middleeast/001/005.jpg

 ポスターの近くにあった小さなカフェの店主に、殉教した若者について聞いた。店主は30代半ばで、
殉教した若者は近くに住んでいたが、2016年春にシリアで死んだという。若者は店主よりも10歳ほど年下で、
個人的にも知っていたと語った。2015年に初めてシリアに行った時は戻ってきたが、翌16年に再び行き、
殉教したというニュースが入ったためポスターが貼られたという。ヒズボラは2013年春から、シリア内戦で
アサド政権を支援するために地上部隊を送っていた。ポスターの殉教者は兵士の服を着ているが、
レバノン兵士ではなく、ヒズボラの戦闘員である。

「若者がシリアで死んだことをどのように思っているのか」と店主に聞いた。「ジハード(聖戦)に行けば死ぬ
こともある」と店主は淡々と答えた。私は、若者が祖国のレバノンではなく、外国であるシリアで死んだことに
ついてどのように思うかと聞いたつもりだったが、店主は、シリアで死んだことは問題にもしなかった。