あの人は今  元ストレイライト 芹沢あさひさん(30歳)

2034年、アイドルオーディションの花形番組、G.R.A.D.。 それをテレビで見つめる女性がいた。
14歳でG.R.A.D.優勝を果たし、ストレイライトのセンターとして将来を嘱望されたが、若くしてアイドルを引退した芹沢あさひだ。
「あの頃は若かったですね(笑)」若き日を回想する芹沢あさひは、どこか寂しげだ。
「未だに当時の夢を見ることがあるんですよ。決勝直前に今の旦那と言葉を交わしたこととか、ステージ裏の景色とか」
芹沢さんは15歳の時に足腰酷使の影響で股関節唇損傷にかかり、5年間リハビリを続けたが結局完治することはなく、20歳でアイドルを引退した。

今は蕎麦屋を営む傍ら、283プロダクションのアイドル達にダンスを指導するトレーナーを務めている。
暖簾の屋号の文字は、かつて芹沢と共に活動した元ストレイライトメンバーで親友、和泉愛依さんの手によるものだ。

「いらっしゃいませ」。聖蹟桜ヶ丘駅東口から歩いて3分。
「芹沢 鴨蕎麦」のえび茶色の暖簾をくぐって店内に入ると、黒と赤を基調とした個性的な作務衣を纏った芹沢あさひさんと元プロデューサーの旦那さんの元気な声に迎えられた。
「去年の4月にオープンしました。暖簾の『芹沢』という文字は私の大親友でもある和泉愛依ちゃんに書いていただいたものだし、開店に合わせてアイドル雑誌やテレビでも取り上げて貰いました。
おかげで、県外から足を運んでくださるお客さんが多かったのはうれしかったですね」
芹沢さんは本当に嬉しそうに、僕たちに語ってくれた。
とはいえ、その分、プレッシャーも大きかったという。
「お蕎麦って奥が深いんですよ。
気温によって蕎麦粉の風味も変わりますし、小麦粉との割合で全くの別物になるし。
うちは二八蕎麦がメインなんですが、十割蕎麦を頼んでくれるお客さんもいるんです。
でもその日の気温や湿度で、お客さんの好みに合わないこともあって怒られたりします。
でもそれも修業のうち。我慢、我慢です」
かつてのライバル、トップアイドルに登り詰めた後に現283プロでプロデューサーを務める黛冬優子について尋ねると…
「知ってます?あの頃は私の方が上手かったんですよ?」と、おどけ
「私も怪我さえ無ければって…歯がゆいですけど」
「今はもうアイドルに未練はありません。今度はこのお蕎麦で日本一になれるよう、がんばるだけっす!」
(写真)お蕎麦を手に持つ芹沢さん