283プロを設立して数年、私は芳しくない事務所の業績に頭を抱えていた。
亡き親友の娘を預かっている以上はこの薄暗くて黴臭いトンネルからどうにか脱出せねばと。

どうにもならない状況に喘ぎながら手探りで光を探していた。
ある日、活きの良い若者が一人いると、業界内の知人が教えてくれた。

情報通のような存在はどのような組織にもいるものだが、その彼が珍しく手放しで称えていた。

今どき珍しい、青臭さと熱さを持った将来有望な若者だと。
もしかしたら、トップアイドルを生み出せる存在になるかもしれないと。
名前を──というらしい。

正直、誰だと思った。
長いこと業界にいればある程度の人脈はできる。
顔を見ればどのような人間なのかも、嫌なことに分かってしまう。
旧態依然とした業界が、長年積もり続けた古本と埃で薄暗く寂びていく部屋のように息苦しく感じる時もある。
だがその名前を聞いた時、顔も浮かばなければ噂のひとつも聞いた覚えがなかった。

大体、芸能界というものはそう易しい世界ではない。
思い通りに行かないことなど日常茶飯事。
血の滲む努力を重ねたアイドルが夢に破れて散る姿も珍しくはない。

今どき古い熱血漢の青二才だかなんだか知らないが、芸能界を舐めているのではないか。
私の目は甘くない。
疑心を抱きつつも、ひとまず彼を見に行くことにした。

彼が仕事に取り組む姿勢を見て、芸能人に接する態度を見て、吃驚した。
こんなに真っ直ぐな若者がいるのかと。

同時に、その顔には覚えがあった。
私を置いてどこか遠くへ旅立った顔だった。

彼との出会いが、私の中の埃臭い部屋と黴臭いトンネルに色を着けた。

まさに、太陽だった。