アフリカやアジアを中心に、世界で9億人近い人は自宅にトイレがなく、野外で用を足している。
中でもインドは経済的な事情に加え、トイレを「不浄」とみなす宗教的背景が整備を阻む。
野外での排せつは感染症や女性のレイプ被害を招きかねない。
政府とNPO、トヨタ自動車の現地法人が連携し、劇的な改善を見せ始めた農村を訪ねた。

思春期にさしかかった女児にとって、野外排せつは切実な問題だった。
朝は午前五時半までに済ませ、夜は午後八時以降にした。
「農作業中の人たちに見られたくなかった。だから昼間は我慢した」。
トイレに行かなくても済むよう食事や水を飲む量も抑えていた。

「TOYOTA」の文字が壁に入り、水洗式の女子用トイレが学校に完成したのは二〇一六年三月。
「持続可能な社会」を目指すトヨタはトイレを建設するだけでなく、
地元NPOの「SNEHA(スネハ)」とともに教育を取り入れた「ABCDプログラム」を学校で始めた。
「用を終えた後の手洗いは感染症を防ぐためです」「次の人が気持ち良く使えるようにトイレ掃除は自分たちで」−。
NPOのスタッフが通い、子供らに繰り返し教えた。トイレの清掃方法も実践してみせた。
当初は学校の全児童二百四十人のうち、家にトイレがあるのは六十人だけだった。
子供を通じ、親たちも野外排せつの問題点を認識した。
SNEHA代表のラマサミーさん(60)は「現在は児童全員の家にトイレが設置された」と胸を張る。

手厚い意識改革まで組み合わせたプログラムはトヨタ独特の取り組みだ。
これまでにトヨタが車両組立工場を置くラマナガーラ県内で、
公立学校の35%に当たる五百二十七校で実施された。