「AI失業は怖くない論」の落とし穴
<連載>「AI失業」前夜(6)鈴木貴博(経営戦略コンサルタント)
https://shuchi.php.co.jp/the21/detail/5261
「AIが仕事を奪う」という悲観論に対し、「いや、AI失業は決して怖くない」という「楽観論」もまた、世の中には数多く出回っている。
その根拠となっているのが「AIは決して、人間の能力に追いつくことができない」という見解だ。
一見、耳に心地の良いこの楽観論。はたしてどちらを信じるべきなのか。
著書『「AI失業」前夜』にて、近未来のAIと人間との関係を描いた鈴木貴博氏に聞いた。

一つめに念頭に置いておくべきことは、今の人工知能研究は近い将来、壁にぶちあたって停滞する可能性がある一方で、今から5年後の未来には、それを突破するためのまったく新しいニューロコンピュータが出現するのである。

そして当然のことながら、「現在のプログラミング技術の延長では解決できない」問題は、新しい前提の下では解決可能な問題になる可能性がある。それだけの変化がこれから先、5年間で起きるのだ。

仕事の「ごく一部」が消えるだけでも大混乱に

しかし、それはあなたの仕事が楽になるだけでなく、会社の中で誰かの仕事がいらなくなることも意味している。
実際にメガバンクでは、ロボティック・プロセス・オートメーションで数千人単位の社員をリストラすることを発表している。

仮に「人工知能は怖くない論者」が主張するように、人工知能がそれほど発展できずに世の中で使われるようになる未来がどのようなものになるか。
それは世の中から数十%程度の仕事が消える未来になる。これはマクロ経済で見れば恐ろしい未来であることに変わりはない。失業率が5%増えただけで世界は大不況になるのだ。

つまり二つめの落とし穴は、たとえ人工知能が人間と同じ能力を未来永劫獲得できなかったとしても、AI失業による大不況がやってくることには変わりがないということなのだ。