「統計数理」から見たAIブームをすべて話そう
樋口知之統計数理研究所所長に聞く
https://newswitch.jp/p/13062
 −AIブームをどう見ますか。
 「AI技術が日々進化する状況だ。年や月ではなく、日単位でアイデアが共有され、技術が更新されている。従来の研究や学術界を揺るがしかねない流れだが止まらないだろう。
この背景には三つの要因がある。まずディープラーニング(深層学習)が圧倒的なパフォーマンスを実現したことだ。深層学習の中身はブラックボックスになるが、それ上回る利点があった。
画像やテキスト、音声データの学習はめどが立ち、動画への対応が進む。人間がコミュニケーションする情報のほとんどを機械で扱えるようになった。情報系研究者は誰でも使えるほど使い勝手が良い」

 「次に計算プラットフォームが広く提供された。グーグルの『テンソルフロー』など基本的な深層学習フレームワークや計算ライブラリーが提供され、計算環境は買えば手に入る状況になった。
最後は米コーネル大の論文共有サイト『アーカイブ』(arXiv)だ。もともと物理学分野で論文の査読が終わる前のペーパーを共有するために始まったが、コンピューターサイエンスの研究者が投稿するようになり投稿が爆発的に増えている」

 「この三つがそろったことで、研究開発が飛躍的に加速した。アーカイブで論文を読んで、良いアイデアをみつけたらプログラムを書いて一晩計算機を回す。翌朝、良い結果が出ていたら2−3時間で論文を書いて投稿する。そしてアーカイブで次のアイデアを探す。
研究者が知恵を絞って書いた論文は次の日にはキャッチされている。数日後には、その先の論文が投稿される。こんなことが日常的に行われている。もう老人にはついていけない」