「腕を触られるのは嫌いだ」
いつもの帰り道。ネポケットに手を突っ込んで歩くネズミの腕に手を回そうとしたセンターの僅かな動きを察知してそう言った。
センターは少し固まっていたが、「別に、そんなつもりじゃない」と呟いてネズミの隣を歩いた。
「ネズミ、最近なんだか冷たい気がする」
「何言ってる。この前だってセンターの希望に沿って海に一緒に行っただろ」
「一緒に来てくれたけど、浜辺まで来たのに『暑い』って海の家に籠もって音楽聴いてただろ」
「自由だろ、海の楽しみ方なんか」
「普通は一緒に来たら一緒に水かけ合ったり砂のお城作ったりするんだよ!」
「それは普通なのか」
「普通は海行くのに水着を持たずに蓄音機とレコード持ってきたりしない!海に来たら一緒に楽しむんだよ!」
「海にまつわるクラシックだからいいだろ。第一なんでわたしがセンターの価値観に合わせて同じ楽しみ方をしなくちゃいけないんだ」
「そうじゃなくて!」
「うるさいな。そういうセンターだって私が誘ったウィーンフィルコンサートの最中に寝てただろ。しかも開演5分で寝てた」
「だって、心地よい音楽だったから」
「誤魔化すな、音楽を聴いてもないくせに!しかも帰り道で言ったこと覚えてるか?『ネズミ、何で誰も歌わなかったんだ?』…クラシックを歌謡曲かなんかと一緒にするな!」
「た、楽しみ方は人それぞれ…」
「ほら、やっぱりそうなる」
少しの静寂が二人のあいだにあった。破ったのはセンターだった。
「…分かった、じゃあ間を取って海でウィーンフィルコンサートしよう。私が泳いで、ネズミが歌を聴く」
「すごく考えて出した答えがそれか。蓄音機とレコードで音楽聴いてた時と何が違う」
「ネズミが水着を着ているかどうかだ」
「…わたしの水着姿が見たかったのか」
「うん」
「一緒に楽しむとか言って、わたしの水着姿が目的か」
「それはそれとして、ネズミの水着姿を観たい」
「なら海じゃなくてもいいだろ」
「うん。水着姿がみれるならどこでもいい」

次の日、ラッパッパ部室

「おはよーさん…ってネズミ!」
「朝からうるさい、オタベ」
「な、何で水着姿でクラシック聴いてるん!?」
「色々考えた末の折衷案だ」
「はぁあ!?」