大がかりな土木工事が必要で採算が取りにくい上、適地が少ない−。こんな小水力発電の課題を克服した設備が開発された。
農業の利水インフラを有効利用できるため、栃木県は、売電による収益を地域活性化に役立てようと、大規模導入を計画している。 (林勝)
 富士山麓の水資源に恵まれた山梨県都留市の家中川。本流の桂川から市街地へ水を導く人工河川で、幅は三メートル程度。
コンクリートで固められた区画に同市が設置した小水力発電設備が小さく収まっていた。
 集水板で一時的に水の流れを遮り、縦に二つ並べた円筒形の水車の間に水を勢いよく流れ込ませて回転力を得て発電する。
流木などの大きなごみが流れてきても上流側の柵で除かれ、別の流れ口から下流へ。小さなごみは水車の間をすり抜けていく。
 「流れをできるだけ邪魔しないよう設計してあります」と、開発したシーベルインターナショナル(東京都千代田区)の秀沢彰さんは説明する。
設置・維持管理費を大幅に減らし、設置可能な場所を増やすためだ。
 従来の多くの小水力発電は、基本的にダムの水力発電の小型版。ごみを除いた一定量の水を水車に導く大規模な施設を、高低差のある場所に造る必要がある。
このため建設費が膨らみ、採算が取れる適地が限られ、普及の壁となっていた。
 同社は上下水道の設計コンサルティングの経験を生かし、高低差の小さい既存の水路や小さな川への設置を目指した。
水車や発電機、集水設備の形状など、それぞれ複数タイプを用意し、水路の幅や水量などの条件に最適な組み合わせを選択する方法を考案。
部品を標準化してコストを減らした。工事費も少なくて済み、出力一キロワット当たりの設置費用は、従来の数分の一の百万円近くにまで抑えることができた。
 さらに、水量が減っても効率的に水車を回せる仕組みなので、農閑期で水かさが減る農業用水路にも対応が可能だ。
 同社は電力インフラが未整備の新興国地域でのニーズも見据え、インドに事業を拡大。
秀沢さんは「日本ではたかが十キロワットでも、百世帯一集落の電力を賄える地域もある」と話した。

◆売電収益で地域活性化 導入計画の栃木県
 シーベルインターナショナルの小水力発電を、農閑期にも水量が見込める農業用水路に多数設置し、計千キロワットの発電ネットワークをつくる国内初の事業が
来年、栃木県で始まる。七月に始まった「固定価格買い取り制度」を追い風に売電で収益を上げ、地域の活性化を目指す。
 環境保護などを名目に行政の補助金をあてにするケースがあるが、今回の事業では県や関係市、土地改良区、地元経済界らが新会社を設立。
事業費約十億円を地元金融機関の出資や一般の投資を募って調達する。
 課題は制度の壁。現在、農業用で国が認めた水利権を発電にも利用する際、設備一基ごとに許可を求めている。
今回の事業では百基近くを設置するため、それぞれ煩雑な許可申請を行うと多大な労力とコストがかかる。
他に電気事業法の縛りもあり、県は総合特区の指定を受け、許可の簡素化や要件緩和を求めて国と協議を進めている。
 農業用水路での小水力発電が、農業を守ることに役立つとの指摘も。
筑波大利水工学研究室の谷口智之助教は「水路を維持管理する土地改良区が、農家と農地の減少で全国的に運営が難しくなっている」と話す。
 栃木の事業では、収益を地元の土地改良区に還元する方針。谷口さんは「水資源の有効活用が、農地の保全にもつながってほしい」と期待している。

東京新聞:<エネルギー再考>小水力発電 農業用水路でも可能に:暮らし(TOKYO Web) http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/CK2012071602000140.html