おっさんになった俺が天使の如き赤ん坊だった頃。ハイハイから伝わり歩き
の移行期だったか?

親父の実家は結構な農家だった。機械化がまだ進まない頃故、春となれば
親族総出で田植えだ。
天使の如き(ryな俺は乳母車に乗せられてあぜ道に。三歳上の姉が子守りを
任せられたのだが、そのうち飽きた姉は時々乳母車を前後させるだけになった。
俺は五月晴れの蒼い大空を流れる雲を見詰めて過ごしていた。ナニか哲学的
な事を連想していたような。

ふと視界が揺れ出したのを憶えている。そして体中に走る振動。
なんだろう、と思った次の瞬間真っ暗そして冷たい世界が俺を包んだ。

息ができない。身動きも出来ない。無理に息をしたら激痛が鼻から肺へ。

意識が遠のいたとき、俺の身体を何かが掴み揚げ逆さにされて強くそして何度も
背中を強打されたと記憶する。なにかを吐き出しながら大泣きした。

子守りに飽きた姉がどこかに遊びに行っちまったらしい。
きつく怒られた彼女も大泣き。

それからすでにウン十年。幼い天使がそんなことを憶えているわけもないと
高をくくった姉は「あんたが勝手に田んぼに墜ちたんだ」と言い張っている。
なめんな。