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 「あの場面は、スタートを切る勇気があるだけでは無理だと思います。コンディシ
ョニングだったり、絶対に行けるという自信だったり、本当に全てが整ってないとス
タートが切れない。『アウトになったらどうしよう』という考えがあれば成功できて
ないと思う」

 間一髪のタイミングで滑り込み、塁審が大きく両手を開く。その瞬間、東京日本中
が揺れた。「イチかバチかでは走れない。100%の確信がどこかにあったはずです」。
当時、近本は18歳だった。あれから6年が経ち、ドラフト1位で阪神に入団した。画面
の中にいた鳥谷が目の前にいる。「ああいう場面で、最高レベルの舞台で、なおかつ
成功された。当時の話を聞いてみたいと思いますね」。鳥谷しか味わったことのない
感覚を教わるつもりだ。

 今季の目標は新人王と盗塁王と掲げているが、近本のこだわりは「得点力」だ。「
得点圏に自分がいることを意識しています。シングルヒットを打って一塁にいるのと、
そこから盗塁して二塁にいるのでは、投手に対しても野手に対してもプレッシャーが
かかるので。そうなれば力みだったり、疲れだったり、後に響いてくる。できるだけ
得点圏に行くことを考えています」。見せ場である盗塁も1点を取るための手段。相手
バッテリーとの駆け引きを制し、本塁を目指す。

 50メートル5・8秒の俊足だが、ただ速いだけじゃない。ベースランニングにも工夫
がある。「1歩でも早く次のベースに到着できるように、体の倒し方を意識しています。
いかに早くベースを踏むかが大事なので」。それはキャンプ中の「足跡」から伝わっ
てきた。近本の走路は、他の選手より1〜2メートルほど内側を走り、膨らみが少なく、
ほぼ直線で走る独自スタイルだ。