倉本は、開幕カードを無安打、打率0割で終えた。10試合をこなしてもヒットは4本しか生まれず、打率は1割1分台。凡打に終わるたび、スタンドのため息が重くのしかかった。
「正直、打つ手はなかった。どうすればいいかわからなかった」

 試合を終えて帰宅してからも、悶々とした。リセットしたくても、気がつけば野球のことが頭を占める。バットを持ち帰るのをやめ、テレビのスポーツニュースも見ないようにした。長く暗いトンネルの出口をなんとか自力で見つけようと、もがいた。

 たとえ微かでも、光が見えれば、前進への意欲は湧く。
 しかし、この時の倉本には微かな光さえも見えなかった。だから、監督に自ら申し出るべきだと思った。スタメンから外してください、と。
「そろそろ自分で言わないといけないと思っていました。迷惑をかけ過ぎてる。ちょっと自分でも我慢できないなと……」

 まさにその時だった。
 4月13日、試合前のバッティング練習中に指揮官が声をかけた。ラミレスは倉本の胸中を見透かしているかのように、バッティングの技術的なアドバイスと、そして心のアドバイスとを授けた。
 バッティングでは、ボールを捉えるポイントについて教えられた。より投手寄りのポイントで打つことを意識してはどうか。「自分では気づいていなかった」ことに気づかせてくれた言葉は、一つ目の小さな光となった。

 さらに、ラミレスは「心配することはない」と励ました。
「明日は明日の風が吹く、今日はまた新しい一日だと。正直、ずっと引きずっているところはありましたし、すごく心に響きました。選手としてあるべき姿を教えてくれた。自分の座右の銘にしたいと思うぐらい、本当に助かった言葉でした」

 この助言を境に、倉本のバッティングは徐々に復調へと向かう。
 何より、不調でも使い続けてくれる監督の信頼に応えたかった。
「監督がブレないでやってくれている以上は、ぼくがブレちゃいけない」
 苦悩の余り自ら引き下がろうとした消極的な心は消えていた。

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